受刑者処遇法の運用その6 日付が1日違っただけで「そんな懲罰は存在しない」
法務省は、執行を終了した懲罰に対する審査の申請を不適法として却下するという、不当な運用を行っている。このことは既に批判しておいた。ところが、この不当な運用を前提として、さらに不当かつ安易な不適法却下が横行していることが明らかになった。
以下は、東京矯正管区が今年行った不当な裁決の一例である。
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裁決書
事案番号 東管平成18年(審)第○○○号
審査申請人 ○○○○
○○市○○○○(○○刑務所内)
処分庁 ○○刑務所
上記審査申請人提出に係る平成18年12月20日付け審査の申請について、次のとおり裁決する。
主文
本件審査の申請を却下する
理由
1 申請の趣旨
処分庁が平成18年12月6日に申請人に対してなした懲罰処分について、その取消しを求める。
2 判断
処分庁が平成18年12月6日に申請人に懲罰を科した事実はなく、本件申請は存在しない処分の取消しを求める不適法なものであるから、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律第116条第2項の規定により準用される行政不服審査法第40条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。
なお、審査庁が職権により調査したところ、平成18年12月7日、処分庁が申請人に対して閉居7日の懲罰を科した事実が認められるが、当該懲罰処分は同月13日にその執行を終了しており、既に不服を申し立てる法律上の利益を有していないので申し添える。
平成19年○月○日 東京矯正管区長 柴田元始
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この裁決の最大の問題点は、審査対象である懲罰処分の処分日の記載が1日違っていただけで、「不適法」として却下している点である。おそらく、申請人(受刑者)は「申請の趣旨」として「12月6日に○○刑務所が私に対してなした懲罰処分を取り消す。」というように書いたのであろう。そして、刑務所の記録では懲罰処分の日は「12月7日」となっていたのであろう。確かに、審査対象が特定されなければ審査のしようはないから、取り消すべき処分の特定は審査の申請の必須の要件である。しかし、逆に言えば、特定されてさえいればよいわけで、何も処分日の日付で特定する必要はない。申請人(受刑者)が記載した処分日の前後に他に該当する懲罰処分がなければ、申請書の記載全体から審査対象は「12月7日」の懲罰処分に特定されたものとして、実質審査をすればよいのである。
さらに言えば、申請人(受刑者)が処分の特定の仕方として「○月○日に○○刑務所がなした」と記載したのは、法務省の用意した記載例がそういう書き方しているからであり、誤記の責任の一端は法務省にもある。そもそも、懲罰処分は口頭で言い渡されるのであり、受刑者は処分日を知りようがない。「処分日」なるものは、要するに、処分権者が正式な記録に何日と記載したかによって決まるとしか言いようがない。それは懲罰を告知したその日であってもよいし、その前日の懲罰審査会の終了直後であっても何ら不思議ではない。書面で告知されるなら、処分日の記載もあるから、受刑者も処分日を確知できるが、口頭の言い渡しでは確かめようもないのである。したがって、取り消すべき処分の特定の仕方としては、「私に対して○月○日に告知された懲罰を取り消す。」とするのが素直であり、かつこれで十分である。しかるに、法務省が用意した記載例にならって、「○月○日に○○刑務所が私に対してなした」と無理に書こうとすると、本来知りようのない処分日を推測して書かざるを得なくなるのである。
それでは、東京矯正管区長はどうすればよかったのか?処分日の記載が1日間違っていても処分の特定はあったものと善解して、実質審査をすればよかったのか?それとも、日付の誤まりを補正させたうえで、実質審査すればよかったのか?しかし、悲しいかな、「執行を終了した懲罰に対する審査の申請は不適法」という法務省の現在の解釈・運用を前提とする限り、本件ではどうやっても実質審査に入るわけにはいかないのである。
処分日が誤記されいている場合、本来なら補正が可能であるから、矯正管区長は相当の期間を定めて補正を命じなければならず(受刑者処遇法114条によって準用される行政不服審査法21条)、いきなり申請を却下することは許されない。ところが、本件の場合は、法務省が「執行を終了した懲罰に対する審査の申請は不適法」という誤った解釈・運用をしているため、処分日の記載を訂正しても結局は却下を免れないため、「補正不能」の場合と同様にいきなり却下されているのである。これが本裁決の後半部分である。
しかし、これは二重に誤りを重ねているに過ぎず、受刑者にとっては混乱に拍車をかけるものでしかない。あなたが市役所か税務署で不利益な処分を受けて審査請求をしたら、処分の日付を1日間違えただけで「そんな処分は存在しないから不適法」と言われて、いきなり審査請求を門前払いされた。これで納得する人がいるであろうか?また、逆に、わざわざ日付を1日訂正させたうえで、別の理由で結局門前払いされたら、これも腹立たしいに違いない。こんな訳の分らないことになるのも、「執行を終了した懲罰に対する審査の申請は不適法」などという誤った解釈・運用を、無理やり貫こうとするからである。
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